a 遺失物取扱所
わたしはこの手紙のことで、あなたにたいしてどういう態度をとればよかったのでしょうか。わたしがこの手紙の重要さを強調すれば、明らかに重要でないものを過大に評価し、手紙を届けるだけが役目のくせにわざとあなたに嘘を教え、自分の利益ばかり追求して、あなたのことはないがしろにした、と疑いの眼で見られたことでしょう。それどころか、そのことによって、あの手紙が価値の低いものだとあなたに思い込ませ、心ならずもあなたを騙すようなことになったかもしれません。他方、わたしがこの手紙にたいした価値を与えなくても、同じように疑われたことでしょう。と言うのは、それならそんなつまらない手紙を届けるような仕事になぜ汲々としているのか、なぜ言葉と行動が矛盾したようなことをしているのか、なぜこの手紙の受取人であるあなただけでなく、手紙を託した差出人までも欺くのか、そもそも差出人が手紙を託したのは、受取人にわざわざ要らぬ説明なんかして、手紙の価値を下げてもらうためではなかったはずだ、ということになってしまうからです。
b 拾得物保管所
この問題のわかりにくさは、とにかく、彼女がその手紙を残したのは偶然の事柄ではないということだった。彼女はなんとなくある本能に、ある計算に従ったのだった。ではどういう計算に? となると彼女は答えられなかった。ただ、頭の奥のどこかで、捨てないですべて取っておけば安全に役立つかもしれぬという勘のようなものが働いたのだった。では誰の安全に? それはおそらくいまも彼女にはわからなかった。手紙をひっぱり出したり、読み直したりする必要が生ずる事態は絶対起きないだろうと信じていたが。もっとも、そんな事態になっても、彼女は絶対ひっぱり出したり、読み直したりするはずはなかったが。
Dead letter office
(Eternal dust less ticklish)