列車は出発したのか
それとも到着していないのか
このような疑問は
まるで回転ドアから吹く微風のように
度々わたしたちのありふれた日常を過ぎてゆく
だが不在を埋め合わせるはずのその人物が
既に出演してしまったのか
それともこれから出番がくるのかという最初の疑問は
確かに当初のままで解消されたなどということはない
そしてたいていの物語はこうした不在を
つまり最初のこの疑問
言い換えるなら読者の興味なるものを
プロットに巧妙に招き入れて転回を図らんとする
だからそもそも列車には
もともと誰も乗車などしてはいなかったのである
もしくはどこか遠いところへと
すし詰め状態のまま運び去られたのだ
列車を目撃した者はいない
Kunstwollen
(芸術意欲)
film 1938